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 「カルトフェルが、食いたいなあ」
 「カルトフェルか?茹でようか、揚げようか」
 「茹でたのがいいな。俺、あんまりかてーやつ食えないから、長めに茹でろよ」
 「分かった。一緒にシュパーゲルも茹でよう」
 「そりゃあ、うまそうだ。そいつを食うまでは、くたばれねえな」
 
 
 
 ルートヴィヒの潰したジャガイモと、ちょうど季節のシュパーゲルを食べた。ビールもあれば、最高だけどな。そう言うと、ルートヴィヒは「じゃあそれは晩飯に出そう」と笑った。
  ベッドに横たわる俺の傍らで、もそもそ口を動かす俺を見ているルートヴィヒの眼は、穏やかだった。けぷ、けぷ、と小さく咳き込むと、ゆっくり俺の背を繰り返し擦る。
 
 
 
 「おまえは、食べたのか?」
 「ああ、後で食べるよ」
 「そっか」
 「ああ」
 
 
 
 窓の外は、とてもいい天気だ。窓に視線をやったのに気付いたのだろう、ルートヴィヒは席を立って、窓を開けた。5月のベルリンの日差しは、ぽかぽかして気持ちいい。席に戻った
  ルートヴィヒに、「なあルッツ」と俺は呟く。
 
 
 
 「最近、ずっと考えてたんだ。俺とか、お前とかが、何で生まれたのかって」
 「答えは、出たのか?」
 
 
 
 俺は、わかんねえ、と答えた。俺たちは、自然に発生した、事象に過ぎないのかもしれない。答えなんてないのかもしれない。
 
 
 
 「俺はな、思うんだよ。俺は、国とか、民とか、世界とか、そんなでっかいもののためじゃなくてさ、俺のために、生まれてきたんだよ。俺が、報われるために救われるために、生まれて
  きたんだよ。お前もだ、ルツ。
 …きっと、『プロイセン』はさみしかったんだろうなあ。お前がいてくれりゃ、一人なんて全然大丈夫だったけど、やっぱり最後のときには、お前に傍にいてほしかったんだろうよ。
  だから、俺が生まれてきた。何度も何度も繰り返して。今度は、ひとりじゃないように」
 
 
 
 俺はもう、これまでの俺のように、繰り返すことはないだろう。また、俺の胸にある鉄十字を背負って、生まれてくることは、もうないだろう。
 なんたって、俺は救われちまったから。
 
 
 
 ルートヴィヒは、ギルベルト、と俺の名前を呼んで、俺の投げ出した左手を取った。しわくちゃで、血管が透けて見える、老いぼれの手。
 俺は笑った。5月の光に負けないくらいに、笑った。
 
 
 
 
 
 
 「ひとりじゃないの、幸せすぎるぜ!」
 
 
 
 
 
 
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