こんにちは、シーくんですよ。
残念ながら、世界はもうすぐ終わるみたいです。
僕が生まれたのは、この世界が2度目の大きな戦争を経験してる真っ只中だったそうです。僕はそのときのこと、ちっとも覚えてないですけどね。イギリスの野郎が戦争に勝つために、
海のど真ん中に置いてったのが僕の身体なのです。戦争中は、僕の家に何百人もイギリスの野郎の家の人たちがいて、お国を守っていたらしいです。ま、戦争が終わったらほっぽいて帰っ
ちゃったそうですけど。
僕は戦争を知りません。
僕は国ではないらしいです。
だからどの国とも戦争をしたことがありません。
シーくんがシーくんだって自覚したばかりのときも、僕の周りの国たちはどこか で戦争をしていました。僕の知ってる場所ではありませんでしたけど、皆何かと戦っていました。
イギリスだってそうです。パパやママだってきっとそうです。
それは、遅れているって呼ばれていた国たちとでもあったし、仲良しだった筈のお隣さんかもしれないし、もしかしたら国と国じゃなくって、自分の中でだったかもしれません。
僕の家には人がほとんどいません。
だから信じるものが違うことも、肌の色や髪の色が違うこともありません。
それらが違うから、同じ国の中でだって殺しあうこともあるそうです。
僕はそれらの違いがよく分からないので、何故かれらが殺しあうのか分かりません。
僕ら国も、そういった違いの為に、他の国を侵略したり滅ぼしてしまったりするそうです。それが同じ国の中なら、自分の家の人を仲間はずれにすることだって。
国って何なのでしょうか。そこに住む人の為のものじゃないんでしょうか。
シーくんだって国ですから、イギリスの野郎を蹴落として一番強い国になりたいです。
でも、シーくんのおうちから見ていると、国なんてみんな変わりません。
アメリカだとか、イギリスのおうちが高く見えるわけでも、ほかの国が低く見えるわけでもありません。皆同じで、水平線と同じ高さであるだけです。
一番にならなきゃいけないんでしょうか。
なら、一番になれないシーくんは、いけない子なんでしょうか。
僕は生まれてしまいました。
僕は国ではありません。
皆僕のことを認めてはくれません。
でも僕は国であるらしいので、ずっとここにいます。
世界はどんどん暗くなっていきます。
僕はここから世界を見ています。
僕の頭の上を、いつもたくさん飛行機が飛んでいきます。
イギリスは今大変な状況のようです。
僕は自分が見えることしか分からないので、詳しいことは分かりません。パパとママからの手紙が途絶えました。最近はどの国とも会えていません。きっと、国でもなんでもない僕に構う余裕なんてもうないのでしょう。
だからシーくんはひとりきりです。でも寂しくはありません。本当はずっとそうだったんですから。この広い広い海に、シーくんは最初からひとりきりだったんです。
昨日、兵隊さんが僕の家から出て行きました。
イギリス本国はもうおしまいだ、ここも巻き添えになるかもしれないと兵隊さんは言いました。でも、僕は行けませんでした。国だからです。僕は国なので、兵隊
さんを見送りました。今朝になって、見覚えのあるボートの破片が流れつきました。僕は国民ひとり守れもしないのだなあと、哀しく思いました。
国って何なのでしょう。僕は何のために、人と同じ形をとったのでしょう。僕には何もできません。戦うことも、逃げることも、守ることも、何もできません。ただ笑って泣いて怒っ
て、人間のふりをしていることしかできません。僕は何なのでしょう。国だと言われて、国じゃないと言われて、それでもここに残り続けている僕は。
神様、
僕を助けてください。
僕はきっと、どこに行くのかはもちろんどこから来たのかも分からない迷子だったのです。僕の頭の上を、飛行機が飛んでいきます。黒い塊が、僕の上に落ちてきます。ようやく僕は
終わります。それでは皆さん、さようならなのですよ。
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