「ロシア。俺は近い将来、消えるかもしれない。それは国としての体裁を失っての消滅かもしれないし、弟に食い殺されるのかもしれない。俺はそれを受け入れるつもりだ。…いいか
ロシア、お前が俺に愛されたことを忘れるな。お前は愛されることができることを忘れるな。それさえ忘れなきゃ、お前はまた違う誰かを愛することができる。国は孤独だ。共存はでき
ても、共生はできない。だからといって俺たちがひとりで生きていけるとは思わない。だから、忘れるな、俺がお前を愛したことを忘れるな。いいな、ロシア、イヴァン、俺が愛したひと。
お願い。
私を、
忘れないで」
「ではここに、新生ロシアと統一ドイツの友好を約束するものとする」
高らかな宣言の声に、ロシアとドイツはお互いに右手を差し出した。ドイツの手のひらからは、やっとひとつの形となった統一ドイツの力強さが感じられる。ソヴィエトを捨てて生まれ
変わったロシアもまた、ドイツの手をぎゅっと握り返した。この絆が絶たれることなどないように。
ドイツの首には、ふたつの鉄十字が下げてある。ひとつは彼のもので、もうひとつは彼の姉のもの。彼が彼女が守り続けた、彼らの誇り。
ロシアの傍らに、もう彼女はいない。目の前の彼女の弟が彼女を喰らい尽くしたのだとしても、彼女がすべてを承知してこの弟に自ら身を捧げたのだとしても、ロシアはもう悲しまな
い。
彼女が残してくれたものがある。それは、僕のなかに刻まれているもの。それは、彼女が僕に残したスティグマだ。だからロシアはもう、さみしくなんてない。
「…わすれないよ、プロイセン、マリア。僕の愛したひと」
彼女の心はここにあるのだから。
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