俺とイタリアちゃんが話す機会ってのは、意外な事かもしれないが少なくもない。イタリアちゃんがあの物騒なスイスを軽々と乗り越えて やってくるのはオフであろうとオンであろうと弟を訪ねてくるのがほとんどだが、事前に連絡を入れないことが多い。「ルート、ルート ぉお!」と半分泣き喚きながら、時にはほぼ半裸で国境を越えて来るイタリアちゃんにいっそ敬意を覚えるが、ともかく、難点は連絡を 入れないということだ。必然的に、仕事熱心のむきむきは可愛いイタリアちゃんの来襲に気付く事無く職場で書類整理に明け暮れていたり する。不幸な弟め。ケセセ。心の中で高笑いしたと思っていたら、現実に漏れ出ていたらしい。びくっ体を震わせるイタリアちゃん。 イタリアちゃんは俺のことを結構怖がっているようだ。イタリア統一の時暴れすぎたんだっけ?その後坊ちゃんをボコったからか? それとも俺がイタリアちゃんもロマーノちゃんも好きすぎるからかもしれない。随分あれから時代が過ぎたが、俺は誇り高きドイツ騎士団、 主の為に血を捧げる生き物だ。教皇様のお膝元、あらゆるものから祝福されたイタリアの地は俺が愛し慕って然るべき存在だ。また、 ドイツ国民にとってイタリアは何時の時代からも楽園だ。神聖ローマの奴がイタリアちゃんおっかけてたのも分かるなー。うん、やっぱり イタリアちゃん可愛い。

 話を戻すが、俺とイタリアちゃんが話す機会ってのは少なくない。だが、悲しいことに話題はそうなかったりする。共通の話題といえば ヴェストくらい。イタリアちゃんは昔から絵も上手いし歌も上手い、その上可愛い。それまた可愛い。
 イタリアちゃんは例えるなら虹色で、俺の持ってないたくさんの色を持っている。俺が持っている色といえば硝煙の黒、返り血の赤、 強いて言うなら髪の色の金くらいのもので、それさえ弟にやってしまった。なんだ、俺の色なんて何もないな。欲しいもんでもないけど。
 うん、要するに俺とイタリアちゃんの共通かつ一般的な話題はヴェストのことなのだが、今日に限ってはイタリアちゃんは反応が今ひとつ だ。ヴェストがイタリアちゃんちに行きたいって言ってたぜ。とか。ヴェスト鍛えすぎて体重増えてやんの、筋肉で。とか。そういう話題 を振っても、なんか食いつきがよくない。「ヴェ、ヴェッ、そうなんだー」。いや、不愉快そうとかそんなんじゃねーけど!俺はその事実 に結構焦っていた。俺が相手とかやっぱり嫌なんじゃねーの?いや、もしかしてもう来てくれなくなったりしちゃったりするんじゃねーの? それは困る。非常に困る!国際的関係上は勿論、俺のオアシスが減る!ああ、なんつーことだ。やっぱりイタリア統一んときに一個領土 もらっとくんだった。そしたら理由なく遊びに行けたっつーのに!

「ねぇねぇ、ギルベルト」

 窓の外のマグノリアに目をやっていたイタリアちゃんが、ふいに目線を俺にやった。動揺して、目が揺れる。そもそも、なんで人間の 名前で。「なっなんだイタリアちゃん?」俺がそう返すか返さないかのうちに、イタリアちゃんの白い指が俺に迫る。「ふぁ?」イタリア ちゃんの指、絵筆や聖歌の歌詞カードを握る魔法の指、「…イ、タリアちゃん…?」が、俺のごつごつした両手を包んだ。

「俺さ、俺さ、ギルベルトが好きになっちゃった」

 え、今、イタリアちゃんはなんてった?「ふ、ふぁあ?」間抜けな声。誰の声だ。俺だよばーか。え、幻聴じゃないよな、イタリアちゃん が、好きになったって?誰を?俺だよばか!!
え、それは本気なのか、イタリアちゃんはルッツが好きだろ、ルッツだってイタリアちゃんが、頭の中でぐるぐるしていた言葉は やっぱり口から飛び出てきて、「うん、俺ルートのこと大好きだよ」ほらやっぱりな。「でもね」「で、でも?」「ギルベルトとは別だよ」 、それは俺と、なんだ、デートしたりちゅーしたりまあそんなこともしたいってことか?「ヴェッ、うん、そんなことしたい」そんなこと ってああああ成人男性にそんなこと想像させないでくれ!

「答えて欲しいんだ、ギルベルト。君が好きなんだ。愛してる。答えはja?それともnein?」

 ああ神様、ドイツ国民はイタリアという名の楽園に焦がれずにいられない人種なのを知っているだろう!アーメン!


それを言われちゃおしまいよ、ティ・アモー!

09/04/13