譜石帯の隣に並ぶ月が造りもののように美しい、あるホドの夜のことである。ホドの町外れのくさはらを満たす静寂を侵すものがあった。それは、はあ、はあ、と肩で息をしながら、そこに立っている。俯いて、自らを影の中に覆い隠したいかのように背を丸めたそれは、はあっと大きく息をついてゆらりと面を上げた。
禍々しいほど明るい月光を一身に受けたそれの手には、抜き身の刃が握られている。その切っ先からはぽた、ぽたと真新しい血が次から次へと零れ落ちる。このくさはらにそれ自身以外の生あるものはなかった。むっとするような死の匂いがそこに充満していた。それをぐるりと囲むように打ち捨てられた無数の獣たちの、死体。血濡れた刃の使い手は、自ら作りだした死体の輪の中心にいた。そこに、立っていた。
はあ、はあ、と、それは息を荒げている。ホドの夜が更けていくにつれ、頭上で雲が過ぎていくにつれ、その呼吸は平常のように穏やかなものに収束していった。ただ、その瞳だけが飢えたようにぎらぎらと滾っていた。血走ったそれがぎゅるりと辺りを見回す。生あるものはそれ以外に何もない。ここには、何もない。
その瞳の色は。
身震いする程の、深紅であった。
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