『レディ・バロック』が宿命より解放される『怒りの日』を。 彼女が騎士であり妻となる『奇しきラッパの響き』を。 我が子の誕生を詠う『恐るべき御稜威の王』を。 『鬼の子』の正体を読み解く『思い出したまえ』を。 カンタビレの呪縛に縛られた『罵倒するものたちへ』を。 ホドの終焉を告げる、『涙の日』を。 歌は、それで終わり。 ヴァンデスデルカと共に崩落するホドに取り残された母は、瘴気に侵されていた。ユリアの譜歌はヴァンデスデルカと母を守ってくれたが、ユリアシティと呼ばれるドーム都市の住民に助け出されたときには、母は衰弱しすぎていた。間もなく母は待望の女の子を、ヴァンデスデルカの妹にあたる女の子を出産したが、その時には母の気力はとうに尽きてしまっていた。 「…でもね、ヴァン。忘れていいんだよ。わたしの、わたしたちの歌を、忘れていいの。いい、んだよ」 母は泣いていた。菫の双眸から、身体じゅうの水分を使い尽くすような涙が流れ出た。 |
ND2002・ローレライデーカン・ルナ・7日
セクエンツィア・アドニス・フェンデ、長女メシュティアリカ・アウラ・フェンデを出産後、間もなく死亡
カンタビレの秘術により若さを保ち続けた彼女は、クリフォトの瘴気に侵され、老婆のように老いた姿で亡くなった
姉から結婚祝いに渡されたスタールビーのペンダントは、息子ヴァンデスデルカからメシュティアリカに託され、一度彼女の手から離れたが、紆余曲折の末、再び彼女の手に戻った
「あのさ。名前、考えたんだ」 帝立病院のベッドで、身を起こしたセクエンツィアの手を、ヴェルフェディリオが握っていた。ヴェルフェディリオは、彼らしくなく照れくさそうにぼそぼそと喋っていた。 「今から歌うから、聞いてろよな」 ヴェルフェディリオは、力無いセクエンツィアの手のひらを両手で包み込み、すうと息を吸う。 覚えていなくてもいい。忘れてしまって、いいのだ。この歌は、箱の中に込められ、引き出しの片隅に忘れ去られるべきなのだ。だが、その箱が開けられるとき。涙が止まらなくなるとき。その時は、君に寄り添おう。君に寄り添い、君の涙を、掬おう。 |
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