「―――」

 

 

 彼はいつも扉の向こうからやってくる。わたしは、扉の開く音を聞きつけるといつも、ぬいぐるみとのごっこ遊びもクッションにじゃれつくのも放り出して、彼のところに駆け寄る。あの狭い部屋では彼とわたしのあっという間になくなって、わたしは彼の背中に腕を回す。
 おかえりなさい。
 彼が、わたしの頭に手を乗せる。毛並みを整えるようにして、やわらかくわたしの髪に触れていく。彼の手が気持ちよくって、漏れ出すような笑みを浮かべた。
 彼が笑って、わたしを抱き上げる。わたしは、身体ごと彼の手に包まれる。彼の手のひらから、魔法のように温度が巡る。彼の触れたところから、わたしが動きだす。

 

 

 

「―――」

 

 

 

 彼がわたしを呼ぶ。
 わたしは彼に答える。

 

 

 

「―――」

 

 

 

 シャンドル。

 

 

 

「ディライラ」

 

 

 

 シャンドル。

 

 

 

 


 目を開ける。眠りから覚めたばかりでうまく開かない瞼のあたりに触れると、すこし濡れていた。ブリアンな泣いていた。涙を流すのは、初めてのことかもしれなかった。
 ブリアンはのろのろと身体を起こす。部屋に明かりはないが、ここがどこだかはすぐに分かった。機械油、コーヒー豆、趣味の悪いレモネード。嗅ぎ慣れたニオイ。神託の盾騎士団基地の地下にあたる、ディーのラボだった。ラボのひとつしか用意されていない安っぽいベッドに寝かされていた。…思いだした。ブリアンはあのとき意識を失ったのだった。態度の豹変したチェシャーと対峙して、エンドリナが彼女との間に転がり込んで。

 

「…おはようございます、ブリアン」

 

 パチン、と音素灯のスイッチを入れる音。ディーノだ。手の中のコーヒーから、湯気が立ち上がっている。いつもより隈のついた目元は、出会ったときよりずっと年老いて見えた。あの男が殺されてから行き着いた場所で出会ったふたりの人間のうちの、ひとり。組織から逃亡しようとしたこの老人を、どうして手助けするような真似をしたのだったか。

 

「エスト医師から連絡を頂きまして。エンドリナくん、でしたっけ?彼が貴女をここに担ぎ込んできてくれたんです」
「………」
「…ゼリーもね、随分心配していましたよ」

 

 視線を落とす。ベッドの隅のほうで、ふたりの人間のほうのもうひとりが眠りこけていた。背もたれのない椅子に腰かけたままベッドに身体を乗り上げて頭を沈めているジェリィ・ネフィルの顔は見えなかったが、健やかな寝息が聞こえた。
 ブリアンはベッドから抜け出した。抜かれたネクタイを、サイドテーブルの上、使い差しのレモネードの瓶の隣に置かれていたそれを手に取って、シュルリと襟に通す。そうだ、ローズマリーは割れてしまったのだった。靴に足を差し入れて、身支度を整えていると、ディーノが静かに言った。

 

「…行くんですね」

 

 ブリアンは、答えない。
 ヒールを鳴らす。沈黙の中を行く。カツ、カツと、それだけがラボに存在する音になる。ディーノの脇を通り過ぎる。ディーノは語らない。ブリアンも、そう。
 ラボの扉のない出入り口まで足を進めると、背後で衣擦れの音が聞こえた。少年が身体を起こす。振り返ったブリアンと、ジェリィ・ネフィルの目が合った。少年は驚いたような、怒ったような、泣きそうな顔をして、「どこに、行くんだよ」と聞いた。
 ブリアンは、答えない。
 少年は緩慢な仕草で立ちあがった。支えるものもなく、少年は立つ。弾劾のように人差し指をブリアンに突きつける。


「答えないのか。…知っているぞ、お前、死にに行くんだろう」

 

 ジェリィ・ネフィルの言葉がブリアンを貫いた。まるで、伸べられた指の先から針が生えているようだった。針を刺した傷口は小さく、頼りない。けれど、弾丸と同じように傷を作り、そこから血は流れるのだ。

 

「いい加減にしろよ!なんで僕らがいつまでもお前に振り回されなくちゃならないんだっ!!おまえは他人のことをどうでもよく思ってるみたいに、自分のことだってどうだっていいと思ってるんだろう?だから、簡単に自分の身を投げ出して、傷つけるんだろう!?今度こそいなくなったんじゃないか、死んだんじゃないかなんて、毎回思わせられる僕らの身にもなれよ!!」

 

 大人のフリが得意な子どもの顔はくしゃくしゃになっていて、声だって涙交じりで聞き取りづらかった。
 第六師団に身を置くようになって、ブリアンに最も近い場所にいた筈の少年の、初めて見る姿だった。

 

 

 

「お前が死んで、全部解決するなんて思うなッ!!!」

 

 

 

 ジェリィ・ネフィルの激昂がラボを揺らす。揺らして、揺らして、やがて、収縮する。ふたたび、ラボに沈黙が落ちる。誰も語らない。誰も、語らない。
 ブリアンが踵を返す。カツ、カツとヒールが鳴り止んだのは、サイドテーブルの前。細い指先が取り上げたのは、レモネード。ブリアンは言う。

 

 

 

「…新しいの。買っておいて」

 

 

 

 コトリとレモネードが着地する。
 ブリアンは向き直り、ラボの出入り口を潜る。地上へ続く階段を一段一段踏むごとに、頭上の音素灯がぽ、ぽ、と点火する。ただの音機関が起動しているだけだと分かっているのに、導かれているように感じた。示されるままに階段を上った。

 

「ブリアン」

 

 地面を伝うような、低音。階段の上に男が立っていた。「…エンドリナ」、たった十数時間前に知ったばかりの名前、昔からずっと知っているような、運命じみた予感なんて欠片もしない名前。しかし、その音は不思議とブリアンの舌によく馴染んだ。ブリアンは壁に背を預けたエンドリナの前を通り過ぎる。口を開く。

 

お別れは、もう済んだの?」

 

 カツ、カツ、と静寂に鳴るヒール。そこにもう一つ、靴音が加わった。履いていても履いていないもののような、使い古した薄っぺらいサンダルの、ぺたんぺたんと、情けない音。

 

「別れは、いらない。
 直ぐに帰るから」

 

 歩幅の違うエンドリナが、ブリアンと並ぶ。ブリアンはルージュの笑みを浮かべた。「そう、」本当に大切なことは、シンプルでいい。それでいい。

 

 

 

「私もよ。」

 

 

 

 


 マルクト帝国辺境の農村、ロレーヌから1時間も歩いた場所に、その村はあった。もう地図に載っていない村。北ルグニカ平野の鬱蒼とした森を抜ければ、荒野があった。その村は、荒野の向こうにひっそりと在った。人々の共同体としての機能が死したまま、そこに存在していた。それは、死を待っているだけの歩く死人に似ていた。
 ワールド・エンド。
 世界の果てと呼ばれた場所。
 8年前エンドリナが全てを凍らせた場所に、ふたりは足を踏み入れた。未だ凍りついたままのワールド・エンドでブリアンはぶるっと身体を震わせる。唇からふ、ふと漏れ出た吐息はあっという間に白く染まり、生きるもののいない極寒の世界に入り込んだことを知らせる。エンドリナといえば、ブリアンよりもずっと薄着なのに、顔色ひとつ変えなかった。それは彼の動きの少ない顔面筋のせいでもあったし、これこそが彼の生みだす世界であったからでもあったろう。ただ、それまでぼんやりと血液の色を映しだしているだけの瞳は細められ、凍りついた故郷を一心に見つめているように見えた。きっとエンドリナ自身は自覚していないのだろうけれど。
 凍った家、凍った枯れ木、凍った地面、凍った畑、凍った農具。8年前から時間を止めたそこに、しかし凍ったままの人間はいなかった。なら、ここで生きていた人間はどうなったのだろう?家々までもことごとく駆け抜けた冬の王の洗礼から、生身の人間が逃れられたとは考えられない。皆、凍え死んだのだろう。エンドリナを除いて、一人残らず。ならば彼らはどこへ行ったのだろう。…そして、いま生きている我らはどこへ。
 その時、どこからか笑い声が聞こえた。はじめはくすくすと、囁くように。音は次第に肥大する。高く、高く、耳鳴りのように鼓膜を打つそれに、ブリアンは、エンドリナは立ち止まる。

 

 

 

「ようこそ、世界の果てへ!」

 

 

 

 静寂だけが支配する空間に、女の声が朗々と響き渡る。あの女暗殺者だ。だが、姿は見えない。エンドリナとブリアンは、女の声がどこから聞こえてくるのか探りつつ、その場に身構えて足元の氷をぱきりと砕いた。
 と、ブリアンの頭上を一陣の風が掠める。反射的に振り向いたブリアンの顔面に、凍った地面から跳弾した弾丸を襲う、と思われたそれを、エンドリナが自ら差し出した氷に覆われた手のひらがそれを止めた。地面に落ちる弾丸。ブリアンは自分が冷や汗をかいているのに気付いた。構えていなければ、エンドリナが跳弾に気付いていなければ。
 エンドリナはもう向き直って、より腰を落として構えていた。痩せこけた横顔を覆うように、パキパキと音を立てて精製される、氷の結晶。空気を一瞬にして冷却し、固体化した空気の壁を作っているのだ。
 そして、ブリアンの周囲にも同じように冷却された空気うが浮いている。空気の壁は、エンドリナだけでなくブリアンを覆っていた。それが意識したものが、無意識のものか見極めかねているブリアンに、エンドリナがちらりとも視線を寄こさずに、「来るぞ」と言った。
 銃声が響く。5発や6発ではない、10発、20発単位の弾丸が間断なく襲い来る。「ぐぅっ」とくぐもった声が聞こえ、ばかでかい図体が揺らいだ。肩を撃たれたらしい。エンドリナは珍しく焦りの見える声で叫んだ。

 

「どういうことだ!何故装填する時間もなしにこんなに連射できる!?相手はただの譜業銃の筈だろう!!」


 冷気がぶるぶると吠えたエンドリナの周りで震えている。すると、ブリアンを覆っていた空気の壁の一部がぱきりぱきりと崩れ、液体へ、固体へ還って行く。そもそも精密性がなく壁と呼ぶのもおこがましいような塊の群れは、万全なものではなかった。加えてエンドリナが負傷したことで集中力が途切れたのか、ブリアンの分までカバーしていた空気の壁が崩れていくのである。その隙間を縫うように弾丸は忍び寄り、肉を抉る。跳ね返せない!
 ブリアンの右足と腕を銃弾が撫でていった。腕は薄く皮膚とシャツの袖を裂いただけだったが、足の方は酷かった。貫通している。みっともない悲鳴を上げながら、頭のどこか、やけに冷えた所でそう分析していた。視界が赤く、赤く、赤くなる。撃たれた所が熱いんだ、熱くて死にそうなんだよ、クソ野郎。
 銃弾の雨が止んでいた。まだ見えない目の代わりに、やけに敏感になった耳がそう教えた。苦しいくらいに動悸がする。目を開けろ、目を開けろ、目を開けろ。じゃなきゃ死んじまうんだ。がんがん頭痛がするみたいに脳に目一杯シグナルを送って、やっと持ち上がった瞼の下の瞳が最初に捉えたもの。キラリと視界の端で何かが光る。眼球が右にぎょろりと動いて、光源を探す。
 450メルトル先、氷という名の葉をつけた枯れ木の枝を足場にして、あの女が立っている。気が、した。他の枝が邪魔になって女の姿は見えなかったが、確かにそこに何かが光ったのを見た。あの女は、笑っている、そんな気がした。はっと気付いてブリアンは声を上げた。

 

 

 

「チェシャーは、狙撃ポイントを複数用意している。さらに狙撃ポイントに無数の譜業銃をセットして、リロードなしに連射しているんだ!」

 

 

 

 ふたたび豪雨が襲ってくるのと、ブリアンの視界をエンドリナの血まみれの手のひらが横切ったのは同時だった。引き摺るようにして凍った家屋の影に引き込まれる。撃ち抜かれた足がズリズリ地面と擦り合って気が狂いそうだ。
 どうやら狙いを定められなくなったらしい、銃弾はまた聞こえなくなった。だが、狙撃ポイントが複数存在する以上、ここを狙えるポイントも存在するに違いない。万事休すだ、あの暗殺者が何の仕掛けも用意していない訳がなかったのに。沸騰した頭でそう虚ろに考えていると、エンドリナの手が無遠慮に伸びてきた。思わず身じろいだブリアンだが、エンドリナが触れたのが右足の弾痕であったからそう抵抗もできやしなかった。
 エンドリナが傷口の上で停止させた手の中に、冷気が生まれる。微弱なそれがエンドリナの意志のままに収束し、ブリアンの足に開いた穴から血を止めた。止血をしたのだ。
 「ただの応急処置だ。そう、動けはしない」エンドリナはのろのろと手を戻して、今度は自分の撃ち抜かれた右肩に手を当てた。だらりと垂れ下がった腕は血まみれで、もう一度ブリアンを引き寄せたときのように動けるとは思えない。
 あの女は今、どこにいるのだろう。ここを狙撃している場所に移動しているのだろうか。浅はかにも対策もなしにワールド・エンドに足を踏み入れたブリアンとエンドリナを嘲笑しているのだろうか。どちらにせよ、こうして息を潜めていられるのはそう長い時間ではないだろう。あの女から与えられた猶予。哀れな仔羊が赦しを請うだけの。
 ブリアンがそう悲観主義的なことを考えて、五月蠅いくらいに騒がしい胸を押さえていると、エンドリナも同じように胸に手を当てているのに気付いた。


 エンドリナの胸が、ブリアンのそれと同じリズムで上下している。息を吸って、息を吐き、また息を吸う。空気中に放出された吐息はすぐに白く染まる。
 ふたりで息をしているようだった。
 そんなばかばかしい錯覚をした。

 

「…考えが、あるわ」

 

 だから、こんな今まで考えもしなかったようなことを言ってしまったのだ。

 

「私を守る気は、ある?」

 

 


 『運命を握る人差し指(フェイト・フィンガーズ)』に揃えさせた何十丁もの譜業銃に囲まれて、チェシャー・キャットはその内のひとつを構えた。凍りついた空間の中で、彼女自身もまた心の凍りついた暗殺者としての自分を取り戻していた。やはり故郷というものはいい、ついている。この呪われた村がチェシャーに力を与えている。

 

「もうすぐ、そうもうすぐよ。だから早く出ておいで、坊やたち…」

 

 凍結した家屋の影から標的が飛び出した。チェシャーは瞬時に狙いを定めて、呼吸を止めて引き金に触れる。しかし、はたとチェシャーは人差し指を停止した。人影は、ひとつ。もうひとつは、どこへ行った。
 答えはすぐに見つかった。確かに影はひとつである。だが、そこにふたりがいた。
 エンドリナに包まれるようにして、構えをとるブリアン。
 ふたりはこちらの居場所が分かっていないに違いない。現に今ふたりが向いているのは見当違いの方向である。しかし、そのどちらの瞳にも揺らぎはなかった。赤と金の、二対の瞳が凛と輝いている。立ち向かうものの瞳。
 ふたりは、声を合わせて咆哮した。

 

 

 

「来い!『踊り狂う引き金(クレイジー・トリガー)』!」

 

 

 

鉄の雨が、雨が、雨が、襲い来る!エンドリナは膝をついたブリアンを包むようにして仁王立つ。集中しろ、集中しろ、そうでなければ到底生き残ることなどできない!エンドリナはより強靭で、より隙間ない空気の壁を作りだすために、針のように神経を尖らせる。たとえ一発たりとも、奴の放つ弾丸に侵入を許すわけにはいかない。
 ブリアンの提示した考えはこうだった。暗殺者は複数の狙撃ポイントを用意している。そして、おそらくは狙撃場所を勘付かせないために、ある程度の時間の間隔で移動している。しかし、ブリアンはその内のひとつを見極めた。ブリアンの見た光が、暗殺者の居場所だ。ならば、そこに暗殺者をおびき出せばいい。他のポイントからの狙撃を全て、かわし切る。そうすれば自ずとあの女は現れる。
 しかし、言葉で言う程簡単ではない。あの暗殺者の降らせる弾丸の雨のすべてを受けずに、撃たせ切る。そんなことは、エンドリナの作る空気の壁という盾がなければ不可能だ。そしてエンドリナは肩を負傷している。反撃の一手はブリアンでなければならない。だが、ブリアンは足を撃ち抜かれて動けない。


 だからこその隊形。
 だからこその、『ふたり』である。


 女暗殺者が移動する。そのポイントは…まだだ。まだ、その距離ではない。狙うべき距離ではない。エンドリナは頭の中で卵をイメージする。同僚ラグ・ドールの友人が厨房に立って、手の中で遊ばせていた卵。あのカタチだ、目指すべきは。エンドリナごと、ブリアンごと包むように、あのカタチを作りだせ。何者をも通さず、中の新たな生命を守る殻を作れ。
 俺と彼女を守れ!
 視界を犠牲にして、眼前まで氷を迫らせる。凍れ凍れ凍れ、悪魔のようなこの力よ、お前には何ができる?すべてを壊す、壊したこの力よ、お前には何を創れる?無数の弾丸が空気の壁を撃つ音が聞こえる、雨音のように絶え間なく襲いくる。ブリアンはエンドリナの下で祈るように手を合わせて、震えている。魔女王と、魔女狩りの王の接吻。ヂヂヂと火花が迸る。エンドリナは言う。

 

 

 

「大丈夫だ。俺が守る」

 

 

 

 雨が止んだ。殻が割れて、視界が晴れる。次にチェシャーが走ったのは、知っている距離だった。あそこだ。あそこだ!ブリアンはこの距離を知っている。キラリと輝いたドッグ・タグ。
 合わせた手と手は、一丁の銃を真似る。魔女王と魔女狩りの王の接合は、待ちかねた分だけ熱く燃えあがる。狙え。狙え。永世の氷さえ撃ち砕くように!

 

 

 

 

 

「行ぃッけぇえええええええええッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 チェシャーがその場所にやってきた。目を見開く。ブリアンの撃ち出した燃える銃弾が眼前に迫る。もう遅い。
 凄まじい爆裂音が、ワールド・エンドを揺らした。チェシャー・キャットの立っていた場所ががらがらと音を立てて崩れ、まっすぐ下に落下した。それと凍った地面が出会ったとき、すべてを吹き飛ばすような轟音が鳴り響いた。エンドリナも、ブリアンも、その場に立っていられずに、ふらりと地面に倒れ伏した。


 エンドリナは、意識を失うその直前に、ひやりと自分の頬が冷たいものに触れたのに気付いた。これは、
 これは、水だ。氷ではなくて、液体化した、水だった。凍りついていた地面が、潤いを得てやわらかくぬかるんでいた。


 氷は、もう解けていた。

 

Endless of the world